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丹沢ジャーナル

水源環境保全・再生かながわ県民会議モニタリングチーム勉強会資料 2008年5月17日から
森林はCO2の吸収源か −温暖化防止の働き−
木平 勇吉   東京農工大学名誉教授  丹沢大山自然再生委員会委員長
<解説>
2007年から神奈川県で行なわれている水源環境税による森林や河川の整備事業の大きな特徴は「県民参加」を標榜していることである。県民は税金を納めるだけでなく、「県民会議」に参加して事業の内容と成果について議論している。県民会議のモニタリングチームは県民の目と感覚で事業を評価するために現地を訪れている。現地では専門家と一緒に勉強をしている。 この文章は木平勇吉が用意した勉強会資料で地球温暖化防止と森林の働きについて述べている。一般の県民のための啓蒙的な資料であるが印刷・出版はされていない。

(1)大気圏と地上の森林との間を循環するCO2
森林に生育する植物(樹木・草)は同化作用により大気中のCO2 を吸収して有機物に変えている。すなわち、大気中のCO2は森林蓄積として地上に固定される。これが森林の光合成機能あるいは森林のCO2固定機能という。
有機物は樹木の幹、枝、根、葉として貯蔵される。樹木は成長すると貯蔵量(森林蓄積)は毎年増える。これが森林のCO2貯蔵機能である。さらに、樹木は伐採されても幹が木材として利用されている限り貯蔵を続ける。これは木材のCO2貯蔵機能である。
樹木および木材が腐ること、燃えることにより有機物は分解されてCO2は排出されて大気中へ戻る。これが森林・木材のCO2排出機能である。
この固定、貯蔵、排出の3つの機能により森林はCO2を大気と地上との間で循環させている。これらは次の式で表される。



樹木は成長することによりCO2を固定して貯蔵する
(2) 樹木に貯蔵されているCO2の量
樹木に貯蔵されているCO2の量は幹材積から計算できる。
貯蔵されたCO2の量をX、幹材積をYとすると次の式から計算される。

X =  幹材積*拡大係数(枝、根、葉)*容積密度*炭素含有率*二酸化炭素換算率
Y *    1.8      * 0.45  *  0.5  *   3.7
整理すると X = 1.5*Y となる。 単位として Xはトン、Yは立方メートルである。
一本の樹木の幹材積は幹の直径(1.2メートルの高さ)と樹高を計り立木幹材積表を見ること。例えば 直径30cm、高さ25mの樹木の幹材積は0.8立方メートル、貯蔵されているCO2は1.2トンである。

(3)毎年、林分により固定されるCO2の量
これは林分の毎年の成長量(幹材積の増加量)から計算できる。林分の成長量とは林分内の幹材積の毎年の変化量(増加量)である。林分収穫表を見ること。一般的な林分成長量はつぎの図に示す。貯蔵量は毎年の増加量の累積である。
(4)樹木の伐採・枯損と木材の腐朽・燃焼により排出されるCO2の量
樹木が枯死して朽ちる、木材が燃えるか、廃棄されて腐ると樹木や木材に貯蔵されていた炭素はCO2として大気中に排出される。
(5)森林経営と木材利用の生涯とCO2貯蔵量の変化
森林は成長して蓄積を増やしていく。そして伐採される。枝や皮などは廃棄されるが多くは木材となり建築物や家具に加工されて長い期間にわたり利用される。しかし、建築物も家具もやがては廃棄されて燃やされたり腐る。そこで貯蔵されていたすべてのCO2は大気中に排出される。
(6)地上におけるCO2の貯蔵量を長期的に増やす森林管理の原則 すなわち、大気中のCO2を減らす方法
@森林を増やす。森林を減らさない。
A成長量の大きな樹種・森林を育てる。
B蓄積量の大きな森林を長く維持する。
C持続的な森林経営を行う。
D木の建築物や家具を長期間にわたり使う。


(7)森林はCO2の吸収源か
@森林のCO2吸収量が排出量よりも大きな期間は「森林はCO2の吸収源」である。
A森林のCO2吸収量が排出量よりも小さい期間は「森林はCO2の排出源」である。
B超長期的に見て、原則的に見て、「森林は吸収源でも排出源でもない。中立」である。

(8)森林が地球温暖化の防止に貢献するためには
森林がCO2の吸収源である状態を実現することである。そのためには
@森林面積を減らさないこと(増やすこと)
A森林の内容を劣化させないこと(向上させること)
B持続的な森林経営を行うこと。(管理の放棄をしないこと)

(9)化石燃料とバイオ燃料(薪・炭・木質燃料)との違い
化石燃料はCO2を排出するしかない(CO2を大気へ行く片道キップをもっている)
バイオ燃料はCO2の排出と吸収との両方が出来る(CO2は往復キップをもっている)
  


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